山あいを流れる川は「渓流(けいりゅう)」と呼ばれます。この記事では、研究や地域の資料を手掛かりに、水中から周りの森へ目を向けてみます。現地で倒木や深みに近づいて確かめる必要はありません。川へ出かける際は家族で読む川遊びの安全チェックを確認し、増水のおそれがある日は近づきません。

山の川の生き物は、魚だけではない

川の生き物というと、泳ぐ魚を思い浮かべるかもしれません。けれど、川底にも、水中で育つ虫たちがいます。

森林総合研究所の研究紹介「森林タイプと渓流の川底に生息する動物との関係」(PDF・3ページ)は、流れのある水にすむ昆虫として、カゲロウ、カワゲラ、トビケラなどを挙げています。石の表面や裏、石同士のすき間のような、小さな場所に注目する見方もあります。そうした居場所は、川の石と虫の暮らしで紹介しています。

魚の例では、イワナが知られています。長野県水産試験場のイワナ解説によると、県内では川の上流域や支流に生息しています。ただし、山にある川ならどこでもイワナがいる、という意味ではありません。魚を調べるときは、その地域の資料を見ることが大切です。

魚の名前を知ることに加えて、小さな川虫が使う場所も考えると、川の景色をもう少し細かく見られるようになります。

森から届く葉と木が、山の川の環境に関わる

川沿いの木から落ちた葉は、水中の生き物の食べ物になることがあります。さらに、葉が何枚も重なれば、その間に空間ができます。森林総合研究所の解説は、こうした落ち葉の重なりも、幼虫が暮らす場所として使われると説明しています。

葉のまとまりを見たときには、「何かが食べるのかな」と「この間で暮らす虫もいるのかな」という、二つの問いを持てます。食べ物や巣の材料としての使い方は、川の落ち葉と川虫の関係で詳しく見てみましょう。

葉を落とす木そのものにも、水中との関わりがあります。土木研究所の「森と川のつながり(1)」は、川を覆う木々が日差しを遮り、水温の上昇を抑える働きを紹介しています。

光の当たり方が気になったら、川の木陰と日なたの違いも読んでみましょう。水温や食べ物との関係を分けて考えます。

また、川に倒れ込んだ木の下流側に、深い淵ができる例もあります。木は水面の上から光を遮るだけでなく、川に入ることで流れや川底の形にも関わるのです。淵がどのような場所か気になったら、深い淵の生き物の暮らしも参考になります。

葉、枝を広げた木、倒れた木。それぞれ違う形で、川の生き物が暮らす環境につながっています。倒木を動かしたり、川へ木や葉を入れたりせず、こうした働きを資料から知るだけでも、森を見る視点が増えます。

山の川の虫には、成虫になって森を使うものもいる

森と川のつながりは、葉や木が川へ入ることだけではありません。水中で育った虫の、その後の暮らしにも続いています。

森林総合研究所の解説では、成虫になってから水辺で過ごすものに加え、水辺を離れ、木々のある場所で繁殖のための行動をするものもいると紹介されています。

つまり、幼虫がいる水中だけを見ても、その虫の暮らしのすべては分かりません。幼虫として育つ場所と、成虫になって次の世代を残すために使う場所が、川と森にまたがる場合があるのです。

「川の虫」と呼ばれていても、一生をずっと水中で過ごすとは限らない。この点を知ると、川岸の木々も、生き物の暮らしに含めて考えられます。

森の違いを比べると、山の川の川底の生き物も違っていた

木があれば、どんな森でも川への関わり方は同じなのでしょうか。

2008年11月の森林総合研究所の研究紹介には、四万十川の支流・黒尊渓流の上流域で行われた比較が載っています。長い年月を経た広葉樹の天然林に広く覆われた流域と、針葉樹の人工林に覆われた流域を比べると、川底にどんな生き物がどのくらいいるかという構成に、大きな違いがありました。

研究では、森の違いに伴って、川に入る落ち葉の量や種類、水温、水質、枝葉の覆い方なども変わり、それらが関わり合って生き物の環境の違いをつくると考えています。

これは、二つの流域で確かめた違いです。「広葉樹の森なら必ず生き物が多い」と順位を付ける結果ではありません。葉の種類だけ、木の本数だけで決まるのではなく、いくつもの条件を一緒に見ることが、川を理解する手掛かりになります。

水質も、川の見た目だけでは分からない条件です。透明さと水質の違いでは、透けて見えることと、検査で確かめる水の性質を分けて考えます。

山の川と生き物についてよくある質問

山の川なら、必ずイワナがいるのですか?

必ずいるとは言えません。この記事のイワナの例は、長野県の上流域や支流についての解説です。木に囲まれている、山の中にあるといった景色だけで魚の種類は決めず、その地域の水産試験場や博物館などの資料で調べてみましょう。

川で育つ虫は、成虫になっても水中にいるのですか?

種類によって違います。水生昆虫には、幼虫の間だけ水中で過ごすものも、成虫になっても水中で過ごすものもいます。ここで紹介したように、成虫の生活に周りの森を使う例もあるため、幼虫と成虫を分けて考えると暮らしを捉えやすくなります。

山の川の写真一枚から、森との関係を一つ読んでみる

以前撮った写真や、自治体・博物館などが公開している川の写真を一枚見てみましょう。水面の上に伸びた枝、落ち葉のまとまり、川に入った木のうち、写っているものを一つ選びます。

たとえば、枝が水面に影を落としていたら、「この木が日差しを遮っている」と一文を添えてみます。落ち葉が重なっていたら、「葉の間を使う虫もいるのかな」という問いでも十分です。写真から実際の水温や生き物の名前まで決める必要はありません。

魚や虫が写っていなくても、暮らしを支える環境を考えることはできます。水の流れる場所から、その周りの森へ。少し広く見ると、山の川の景色に新しいつながりが見えてきます。